伊坂幸太郎「タクシーが多すぎる」を写経して気付いたことのメモ
「文章のトレーニングには、好きな書き手の文章を写経するのがいいよ!」と編集者の方に言われたので、いくつかのエッセイを写経してみることにした。
その第一弾。初心者すぎるけど、気付いたことをメモ。
1)固有名詞への説明の加え方
2)セリフに対する描写
対象:伊坂幸太郎「タクシーが多すぎる」
エッセイ集「仙台ぐらし」収録。
規制緩和によりタクシーが増えすぎた仙台市で、伊坂さんが様々なタクシー運転手と出会う話。ほぼ全て伊坂さんとタクシー運転手の会話で進む。
伊坂幸太郎作品はほぼ小説だけれど、エッセイもよかったなあと思い出したので久しぶりに読み返した。
メモ1: 固有名詞の説明の仕方
誰もが知っているわけではない固有名詞は、いきなりポンと出さずに初出時に説明を加えることが必要。
でも、会話の中で言わせたい時はどうすればいいか迷う時がある。こういう書き方もあるな、というメモ。
頭の中の思いとして地の文で書いてから、「それを話すと」で口に出させる
少し前の新聞記事を思い出した。繁華街の国分町では夜になると、大量のタクシーが車線を埋め尽くす、とあった。大問題だ、と。
それを話すと運転手は、「あれは酷いもんだよ」と嘆いた。
セリフの直後に地の文で説明する
「(前略)仙台ってようするに、夜は国分町しかないんだよ。(中略)利府町まで帰る客も今は滅多にいないからね」と仙台市を少し離れたところに位置する、町名を口にした。
メモ2: セリフに対する描写
色々な描写
運転手は笑わずにはいられないという様子だった。
強がっているのではなくて、達観している風でもある。
運転手は言いながらも暗さがなくて、快活な様子でもあった。
運転手が困惑しながらも、微笑む気配があった。同時に窓の外の景色が止まった。信号に引っ掛かったらしい。
セリフの後ろに続ける文は意外と難しいと思う。
「〜と言った」ばかりだとさすがに単調すぎる。だからもう少し描写を、と思って「〜と笑った」「陽気に答えた」とか書くのだけれど、気を抜くとすぐ似通ってきてしまいがち。うわっ…私の引き出し、少なすぎ…?
比喩
故郷の桜並木を自慢する人が、あれは見事だよ、と言うのと似た口調だった。
「凄かったねえ」と昔食べた思い出の料理を思い返すような言い方をした。
「ば」と音を破裂させるように、言った。
しっくり来る良い比喩ってどうやって出てくるものなんだろう。村上春樹さんとかもそうだけれど。
散々考えたひねり出した比喩が、次の日冷静に見たら「さむっ」としか思えないことがよくある。
どうしても、自分の書いた文章を見返すと、よくない「引っかかり」がまだまだあるなあと感じてしまう。「お!」という良い引っかかりじゃなくて、「ん?」という感じの、読み手に努力を強いる引っかかりというか。
本読むの大好きだからいくらでも読めるのだけれど、だいたい「はやく先が読みたい!!」と思いながら読んでしまうから、ちゃんと読み返さないと細かいところに全然意識が向けられない。ちゃんと読み返さねば。